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認知症になってしまってからでも生前贈与はできる?

相続税対策に生前贈与は有効ですが、すでに認知症になっているときは注意が必要です。贈与をしても無効になる危険性があります。

 

思いがけず贈与がなかったことになる前に、認知症と法律行為との関係性、契約の有効性について知っておきましょう。

認知症になると贈与は無効?

何らかの原因で記憶や判断力に対する障害が起きて、日常生活に支障が出るような病的状態を認知症といいます。原因は1つではなく、例えばアルツハイマー病や脳血管障害によって引き起こされる例があります。

 

この脳の病気は判断能力を低下させ、法律行為の有効性にも多大な影響を与えます。

 

法律行為とは法的な効力を生じさせる「契約締結」などの行為を指しており、生前贈与の際に交わす「贈与契約の締結」も含まれます。つまり認知症であることが原因で生前贈与が無効になる可能性もあるということです。

意思能力の有無がポイント

誰でも自由に契約を締結でき、自らの意思に従い法律関係を構築することができる反面、その方はいったん構築した法律関係に拘束されます。

 

ただこの拘束は当人の「意思能力」を基礎としており、意思能力がないのなら法律関係は生じません。

 

ここでいう意思能力とは「自らの行為から生じる法的な意味や結果を認識・判断できる能力」と言い換えることができますので、もし契約を交わした方がその行為の意味を何も理解できていなかったのなら契約は無効となってしまいます。

契約時に意思能力があれば有効

意思能力の有無はすべての法律行為において必要とされますので、生前贈与を行う場合も例外ではありません。認知症によって判断能力が低下し、法的にも「意思能力を欠いている」と評価されてしまう場合は贈与が無効となるのです。

 

なお、着目すべきは「意思能力の有無」であって、「認知症かどうか」ではありません。もし認知症であったとしてもその症状が軽度で、意思能力があると評価される状態にあれば有効に贈与をすることができます。

生前贈与を有効に行うためのポイント

すでに認知症になっている方が生前贈与をするなら、「少なくとも契約時点では意思能力があった」と説明できる状態にしてから実施すべきです。

 

認知症であるとの診断がされていると意思能力の有無を評価するうえでは不利ですので、意思能力があったことを説明できる証拠などを備えておかないと、あとで「その贈与は無効だ」と誰かが主張してきたときに退けることが難しいです。

 

そこで、医師に診てもらい、症状の程度などを書面に残してもらいましょう。「長谷川式認知症スケール(HDS-R)」や「ミニメンタルステート検査(MMSE)」での評価も効果的です。

※長谷川式認知症スケール(HDS-R)やミニメンタルステート検査(MMSE)は認知機能障害を調べる際に行われる認知テストのこと。

 

また、判断能力の程度を把握したうえで贈与契約の内容を個別に評価し、「当該契約の内容を理解できる状態であるかどうか」に注目しましょう。軽度の認知症でも、法律行為の方が非常に複雑だと有効に契約を締結できないおそれがあります。

認知症が進行している場合にできること

すでに認知症が進行してしまっているなら、できることもかなり限られてしまいます。

 

本人が贈与契約を締結できないからといってご家族が代わりにサインをしても有効にはなりません。

 

また、後見人等を付けることで有効な法律行為をすることはできても、贈与についての権限を後見人等は持ちません。後見人等は本人の保護のために選任される人物であり、贈与という本人の財産を減らす行為をすることは原則として認められません。
ただ、将来の相続財産を守るという意味では成年後見制度の利用も効果的です。

 

遺言書の作成に関しても意思能力(遺言能力)は必要ですので、生前贈与ができない状況なら、遺言書作成にも同じ問題が起こり得ることは覚えておきましょう。ただし有効性については個別に評価しますので、シンプルで簡単な内容の契約や遺言であればできる余地があります。

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越智税理士の写真
  • 税理士
    越智 文夫(オチ フミオ)
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    • 東京税理士会
  • 経歴

    昭和24年、東京都生まれ。東京経済大学卒業。

    「人のためになる仕事をしたい」「巡り合った方のお力になりたい」と考え、税理士を志す。

    大学卒業後に税理士資格を取得。昭和55年池袋に事務所を構え、以来38年、個人・法人に関係なく様々な方のご相談を伺い、税務申告や会計業務でお悩みの解決をサポートしている。

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